スマート家電はペットにストレス?動物生理学と工学から考える感覚の違いと対策

一声かけると照明の明るさが変わり、留守中は自動で空調を整え、決まった時間に家電を動きだす
スマート家電は、わたしたちの暮らしをずいぶん快適にしてくれましたね。

同じ部屋で暮らす犬や猫、インコ、ハムスター、ウサギは、人間とはまるで違う周波数の光や音の世界を生きています。ある生き物には無音で穏やかに見える空間が、別の生き物にとっては光がちらつき、高い音が鳴り続ける環境になっていることがあります。

この「それぞれの生き物が、それぞれ別の世界を生きている」という考え方を、生物学では環世界なんて呼んでます。
ここで大事なのは、環世界は優劣の話ではない、という点です。「動物は人間より感覚が鋭い」という漠然としたイメージで語ると、事実からずれていきます。

実際、この記事で見ていくように、インコは人間と比べると高い音が聞こえません。
そのかわり、光のちらつきは人間より細かく見分けます。得意な帯域が、種ごとにまるで違うという話です。

故に、対策も動物ごとに変わります。難しいですね。

人間と飼育動物の「感覚スペック」の比較

はじめに、家庭で飼われる生き物たちの感覚の基本性能を並べてみます。注目したいのは、聞こえる音の上限と、光のちらつきをどこまで細かく見分けられるか(時間解像度)の二つです。

人間の可聴域はよく20 kHzまでと言われますが、これは名目上の値です。比較実験で使われる60 dBという基準で測ると、実際は31 Hzから17.6 kHzでした。20 kHzが聞こえるのは、損傷のない若い耳に限られます。光のちらつきは、毎秒60回ほどで連続した光に見えます。

犬は45 kHz前後、猫は79 kHz付近までの高い音を聞き取れます。猫の可聴域が突出しているのは、物陰にひそむ小型のげっ歯類が出すかすかな超音波(ヒトには聞こえない20kHzを超える周波数)をとらえるためと考えられています。この背景には体格の問題もあります。頭が小さい動物ほど、左右の耳に届く音の差から方角を割り出すために高い音を必要とするため、小型種ほど高音に強いという傾向があります。

ここで意外なのが鳥です。
飼い鳥は、高音の上限がおよそ6〜12 kHzで、人間より低いという報告があります。哺乳類のような体格と高音聴力の相関も見られません。インコに超音波は聞こえていない、というのが現時点の知見です。一方で光の時間解像度は人間より高く、セキセイインコの実測では最大で毎秒93回でした。

ハムスターの可聴上限はおよそ46.5 kHzです。100 kHz近くまで聞こえるのはマウスで、ハムスターとは1オクターブ以上の差があります。またウサギは、しばしば齧歯類と混同されますがウサギ目の動物で、聴覚は96 Hzから49 kHz。低音側の感度が高く、この点では多くの齧歯類を上回ります。耳が大きいのでずば抜けた聴力を持っていそうですが、彼らが特に得意なのは遠くの音を拾う能力です。

ヒトと飼育動物の感覚スペック比較
生きもの 可聴上限
これより高い音は聞こえない
光の時間解像度
これより速い点滅はなめらかに見える
ひとことで言うと
ヒト 約17.6 kHz
名目20 kHz
毎秒 約60回 感覚スペックの基準。人間が滑らかに感じる動きや、聞こえる音の範囲。
イヌ 約45 kHz 毎秒 70〜80回 ヒトより聴覚・視覚ともに優れる。人間用の映像はチカチカして見える。
ネコ 約79 kHz 毎秒 約58回
ほぼヒト並み
哺乳類トップクラスの高い音が聞こえるが、動きを見分ける速さはヒト並み。
飼い鳥
セキセイインコ
約6〜12 kHz
ヒトより狭い
毎秒 最大93回 聴覚は狭いが、動きを見分ける速さはこの表でいちばん。
ハムスター
齧歯目
約46.5 kHz 実測値は未確認
夜行性の種は低い傾向
ヒトには聞こえない超音波が聞こえる。視覚情報は未確認。
ウサギ
ウサギ目
約49 kHz 実測値は未確認 超音波が聞こえ、かつヒトより低い音も捉えられる広い聴覚を持つ。

光の時間解像度とは:1秒間に何回までの「光の点滅」を、チカチカしている(点滅している)と見分けられるかを示す限界値です。この限界値より【遅い(回数が少ない)】点滅はチカチカして見え、限界値より【速い(回数が多い)】点滅は完全に繋がって一定の光(ちらつかない状態)に見えます。
たとえば、ヒトは毎秒60回(60Hz)が限界なので、それより速い点滅は一定の光に見えます。一方、イヌは毎秒70〜80回(70〜80Hz)まで見分ける能力があるため、ヒトには一定の光に見える「毎秒60回の点滅(テレビやLED)」も、イヌにとっては自身の限界以下の遅い点滅となり、チカチカと(ちらついて)見えてしまいます。
可聴上限は60 dB基準 of 行動聴力検査による値(Heffner & Heffner 2007 ほか)。ヒトの「20 kHz」は名目値で、実測は約17.6 kHzです。

LED照明の「フリッカー(ちらつき)」が与える影響

フリッカーの様子

古いモニターやスマートLEDの多くは、明るさを落とすときに調光という処理を行います。代表的な方式が、電流を非常に速い周期でオンとオフに切り替え、点灯している時間の割合で見かけの明るさを調整するやり方です。明るさを半分にしたいときは、点灯と消灯をおよそ半々の時間で高速に繰り返します。一回あたりの時間はごく短いため、人間の目には一定の明るさに見えます。

問題が起きやすいのは、切り替えの速さが十分でない安価な製品や、暗めに設定したときです。人間のちらつきの限界がおよそ毎秒60回であるのに対し、動物の中にはもっと速い点滅まで見分けられるものがいます。

参考になるのが、トリニティ・カレッジ・ダブリンなどが2026年に発表した、237種を対象にした研究です。飛翔する種の時間解像度は飛ばない種のおよそ二倍に達し、一部の鳥や昆虫は毎秒200回を超える点滅まで識別できることが示されました。研究チームは、高速な視覚を持つ種ほど人工照明のちらつきの影響を受けやすい可能性があると指摘しています。

ただし、毎秒145回前後という高い数値が報告されているのは、シジュウカラやヒタキ類といった野生の小鳥です。ペットとして広く飼われるセキセイインコの実測では、最も高い個体でも毎秒93回程度でした。この研究グループは、セキセイインコが世界で三番目に多い飼い鳥であることを踏まえたうえで、毎秒100回を下回るちらつきであっても飼い主である人間以上に知覚することはおそらくなく、不快に感じる可能性は小さいと結論しています。

同じ研究は、高い時間解像度がすべての小型で活動的な鳥に共通する性質ではない、とも述べています。「鳥だからちらつきに弱い」という図式は成り立ちません。犬についても毎秒70から80回程度で、人間との差はそれほど大きくありません。

要約すると、飼い主に見えるちらつきは、犬にもインコにも見えている。逆に、人間に見えないほど速い切り替えであれば、家庭で飼う動物にとっても問題になりにくい。飼育下の鳥を対象とした照明の比較研究でも、ちらつきの少ない電源を用いた器具が推奨されています。ケージのすぐそばに置く灯りだけ仕様を確かめておけば、実害はかなり避けられます。

PWM調光のちらつきと、種による見え方の違い スマートLEDの点灯パターン(高速でオン・オフを繰り返す) オン オフ ヒト 約60回/秒 連続した光に見える(ちらつきなし) イヌ 70〜80回/秒 連続した光に見える(ちらつきなし) セキセイインコ 最大 約93回/秒 連続した光に見える(ちらつきなし) シジュウカラなど 約120〜145回/秒

※家庭用の一般的な調光LED環境を想定。野生の小鳥ほど時間解像度が高いため、一部の種においてのみちらつきとして知覚されます。飼育鳥(セキセイインコ等)や犬猫への実害は基本的にはありません。

人感センサーやスマート家電から漏れる「超音波」

音についても、人間には聞こえない領域で似たことが起きています。スマートホームの自動点灯や在室検知には、超音波を発してその反射で物体を測るセンサーが使われることがあります。周波数はおおむね23 kHzから40 kHz付近で、人間の可聴域の外側です。ロボット掃除機の障害物検知や一部の距離センサーも、同じ帯域の音を使うことがあります。

さらに見落とされがちなのが、コイル鳴きと呼ばれる現象です。スマート家電の電源部では、電圧を効率よく変換するために内部の部品を高速で振動させています。このとき部品がわずかに機械的に震え、高い音を出すことがあります。人間には静かに感じても、その一部は超音波域にまで及びます。

この音が届くかどうかは、種によってはっきり分かれます。最初の図の通り、猫は79 kHz、犬は45 kHz、ハムスターは46.5 kHzまで聞こえるため、23 kHzから40 kHzの超音波センサーは可聴域の内側に入ります。一方、インコの高音の上限は12 kHz程度までとされるため、超音波センサーの音は届きません。鳥にとって心配すべきは光であって、超音波ではない、ということになります。

実験動物施設の音環境を実測した研究では、照明器具やパソコン、蛇口、各種の計測機器など、身近な電子機器が超音波を発していることが報告されています。古くは、調べた39の音源のうち24が超音波を出していたという調査もあり、近年でも、人間には聞こえないこの音が動物の福祉に影響しうるとして測定と低減の必要性が指摘されています。

ただし、これには対策を簡単にしてくれる物理的な性質があります。高周波(高い音)には、「光のようにまっすぐにしか進まない」「物陰をすり抜けられない」「距離が離れると急激に小さくなる」という特徴があるためです。

研究チームも、ケージを家電の物陰に配置するだけで、ペットに届く超音波ノイズは大幅にカットされると指摘しています。さらに、犬や猫などの多くの哺乳類は、耳を自力で動かすことができます。不快な音がする方向から耳をそらすことで、彼らは自分で音量を下げる防衛行動をとることも可能です。

つまり、スマート家電の置き場所をほんの少し変えたり、ケージとの間にパーテーションなどの遮蔽物を挟んだりするだけでも、十分に高い防音効果が得られます。

もうひとつ、ペット用品を選ぶうえで知っておきたい指摘があります。同じ論文は、市場に多数の超音波撃退器が出回っているにもかかわらず、動物が大きな音で追い払われるという説得力のある証拠は見つかっていないと述べています。音で動物を遠ざけるという発想そのものが、まだ裏づけを欠いています。超音波をうたう製品を検討する際は、この点を踏まえておく価値があります。

図3|ペットに聞こえる音の範囲と、スマート家電が出す超音波 飼い主には 聞こえない域 ヒト イヌ ネコ ハムスター ウサギ インコ 超音波は届かない 23–40k 超音波センサー・コイル鳴き(人には無音) 20Hz 200Hz 2kHz 20kHz 100kHz 60 dB基準の行動聴力検査による値。対数目盛。 高い音は指向性が強く減衰しやすいため、置き場所を変えるだけでも届きにくくなります。

Wi-Fiやワイヤレス通信(電磁波)はペットに影響するのか

スマートホームを支えるのは、光や音だけではありません。Wi-FiやBluetooth、Zigbeeといった無線通信も欠かせず、これらは主に2.4 GHzや5 GHz帯の電磁波を使っています。

よく、こららも健康に影響するんだと耳にします(対象はペットではないかもしれません)が、結論から書くと、家庭で飼われる犬や猫、インコ、ハムスターについて、これらの電磁波が健康や行動に影響を与えることを示す確かな証拠は、現時点では見当たりません。

電磁波と動物の関係でよく話題になるのは、地磁気を感じて方角を知る能力への干渉です。ただ、この議論はもともと長距離を移動する野生の鳥を対象にしたもので、家の中で暮らす飼い鳥に当てはめる根拠は乏しいものです。

加えて、干渉が報告されている周波数帯は数kHzから数MHzという比較的低い領域で、Wi-Fiが使う数GHz帯とは大きく異なります。周波数が違えば、生体との相互作用もまったく別の話になります。

ルーターをペットから遠ざけるべきだという主張には、現在のところ科学的な裏づけがありません。光と音については具体的な対策の余地がありますが、電磁波については、心配の優先順位を下げてよい項目だと考えています。

ペットの飼い主として今すぐできる3つの具体的な対策

ここまでを踏まえ、利便性を手放さずにできる具体策を三つ挙げます。いずれも、製品の仕様を選ぶ段階で判断できるものです。

一つ目は、モニターや照明の選び方です。
テレビや液晶ディスプレイは、ちらつきのない「フリッカーフリー」仕様の製品がペットにも有効な選択肢となります。
一般的なディスプレイの点滅速度は犬やインコの限界値(約80〜93 Hz)を上回っているため、彼らにも連続した光として見えています。しかし、人間と同様に網膜レベルでは高速な明滅(パルス刺激)を受け続けており、これが疲労の原因になります。
点滅を発生させない直流方式のフリッカーフリー製品であれば、このパルス負荷を物理的に排除できます。照明を選ぶ際も、調光周波数が20 kHz以上のものや、ちらつきのない製品をケージ周辺に配置するのが基本です。スマートフォンのカメラ越しに画面や灯りを見て、縞模様が出ないか確認するのも手軽な見分け方になります。

二つ目は、センサーの選定です。在室検知には、超音波式ではなく、体温の変化をとらえる赤外線方式や、レーザーを使う測距方式、あるいはカメラの画像認識を用いるタイプを選ぶと、超音波の発生そのものを避けられます。優先度が高いのは、犬猫、ハムスター、ウサギがいる部屋です。鳥は超音波が聞こえないため、この対策の優先順位は下がります。すぐに買い替えられない場合は、機器をケージから離し、間に物を置くだけでも効果があります。高い音は回り込みにくいためです。

三つ目は、動作ルールの設計です。スマートスピーカーやハブの定型アクションを使い、ペットが眠る時間帯には、寝床やケージの近くにあるスマートプラグや不要な通信機器の電源を自動で切る設定にしておきます。通電そのものを止めてしまえば、コイル鳴きや待機時の高周波も物理的になくなります。ハムスターのような夜行性の動物であれば、人間が寝ている時間こそ活動時間ですから、その時間帯にケージ周辺の機器を止めておく、という考え方になります。

これらは、いずれも大がかりな工事を必要としません。仕様書やレビューで周波数や方式を一度確認する、その一手間で選べる範囲の対策です。

01 / 画面・照明
ちらつきのない製品を選ぶ

液晶画面はフリッカーフリー仕様を。灯りは高周波(20 kHz以上)やちらつき防止設計のLEDへ。

優先度が高い:鳥・犬

02 / センサー
超音波式を避ける

赤外線・レーザー・画像認識方式へ。買い替えが難しければ、ケージから離すだけでも届きにくくなります。

優先度が高い:猫・犬・小動物

03 / 定型アクション
休息時間は通電を止める

寝床まわりのスマートプラグを自動オフに。コイル鳴きも物理的に消えます。

夜行性の子は時間帯を逆に

「動物はみんな感覚が鋭い」という思い込みが対策を誤らせる

この記事を書くにあたって数値を洗い直したところ、下調べの段階で持っていた前提がいくつも崩れました。いちばん驚いたのは鳥の耳です。「鳥は感覚が鋭い」という印象で書きかけていたのですが、高音の上限は人間より低い。インコに超音波は聞こえていません。逆に眼は速い。感覚は総合力ではなく、項目ごとに独立していると痛感しました。ハムスターとマウスを「げっ歯類」でひとくくりにしていた点も反省です。可聴上限は倍近く違いました。動物のことを考えるとき、分類名で束ねた瞬間に精度が落ちる。今回の一番の収穫はそこでした。

まとめ

スマート家電がペットにストレスを与えるかどうかは、機器の善悪では決まりません。人間の感覚に最適化された光や音が、異なる感覚器を持つ同居人にどう届くか、というズレの問題です。

そして、そのズレは動物ごとにまるで違う形をしています。鳥には光の対策を、猫や小動物には音の対策を。同じ「ペット」という言葉でくくっても、必要な設計は別ものです。逆に、電磁波のように現時点で根拠の乏しい心配は、優先順位を下げてよいものです。

そのズレは、生理学の知識で見取り図を描き、エンジニアリングの選択で埋めることができます。技術は、人とペットを引き離すものではなく、両者の感覚の違いを橋渡しする道具にもなりえます。動物生理学とエンジニアリングを両輪にして、人にも動物にも本当の意味で快適な住環境を組み立てていく。それが、この場所で考えていきたいアニマルテックの姿です。


参考文献

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