バイオロギングとは?動物に付けたセンサーでわかる「見えない生態」のすべて

第1章:バイオロギングとは何か(定義)
バイオロギングとは、動物に装着した記録装置を使って、その行動、移動、生理、そして周囲の環境の情報を集める科学と技術の総称です。
英語では bio-logging と書きます。
早速ですが似たような単語との区別を押さえておきましょう。
バイオロギングとバイオテレメトリーの違い
「バイオロギング」は、装置の中にデータをためておき、あとで装置を回収してから中身を取り出す方式を指します。
これに対して「バイオテレメトリー(生物遠隔測定)」は、センサーが取得したデータを電波で無線送信する方式です。
前者は大量かつ高解像度のデータを記録できる反面、装置を回収できなければデータも失われます。
後者は動物を再捕獲しなくてもデータが手に入る一方、送信のための電力と重量が必要になります。
両者の定義は Ropert-Coudert と Wilson らによって整理されてきました。
現在は、装置に記録しつつ一部を無線でも送るというハイブリッド型が主流になりつつあります。
対象の動物を再捕獲・装置回収しなくても、離れた場所からリアルタイムでデータが手に入る。
電波を飛ばすために多くの電力が必要になり、バッテリーを含む装置全体の重量が重くなりやすい。
無線送信に電力を割かない分、長期間にわたり大量かつ超高解像度(高頻度・高精度)なデータを詳細に記録できる。
動物の再捕獲や切り離しポップアップなどで装置自体を物理的に回収できなければ、すべてのデータが失われる。
現在は技術の進歩により、「装置内に大容量データを記録(ロギング)しつつ、その一部や要約を無線でも送信(テレメトリー)する」という、双方の長所を融合したハイブリッド型が主流になりつつあります。
派生概念「Internet of Animals(動物のインターネット)」
近年は、この考え方をさらに押し広げた「Internet of Animals(動物のインターネット、IoA)」という概念も語られます。
モノにセンサーを付けて情報をやり取りする IoT の動物版という発想です。
装置を身につけた動物そのものが、地球を測るデータ収集プラットフォームになるという見方です。
動物が「測られる対象」から「測る主体」へと役割を変えていく。
これがバイオロギングの役割です。
第2章:バイオロギングは、何を解き明かしたのか
バイオロギングのしくみを見ていく前に、まずはこの技術で何がわかったのかを見てみましょう。
これから紹介するのは、動物に小さなセンサーをつけたことで、はじめて明らかになりました。
※鳥が多いのは決して私が鳥好きだからではありません。
空を飛びながら眠る鳥がいた

グンカンドリという海鳥は、餌を探して、何日も海の上を飛び続けます。ときには10日間、3,000キロメートルもの距離を、一度も降りずに飛ぶこともあります。
では、その間、いつ眠っているのでしょうか。
研究チームは、鳥の頭に脳波(=脳の活動を記録する信号のことです)をはかる小さな装置をつけて、この謎を調べました。
すると、おどろくことがわかります。グンカンドリは、飛びながら眠っていたのです。
しかも、脳の半分だけを眠らせて、もう半分は起きたまま飛び続けることもできました。
ただし、その睡眠時間はほんのわずかです。空の上では、1日にたった42分ほど。
地上では1日12時間ほど眠るのに、飛んでいるあいだは、数秒ずつの居眠りでしのいでいたのです(マックス・プランク鳥類学研究所ほか, Nature Communications, 2016)。
一度も止まらず11日間飛び続けた鳥がいた

オオソリハシシギという渡り鳥は、アラスカから南半球まで、広い太平洋をまっすぐ横断します。
2022年、衛星タグ(人工衛星と通信する追跡装置)をつけた1羽が、アラスカからオーストラリアのタスマニアまで、およそ13,560キロメートルを飛びました。途中で水も食べものもとらず、一度も止まらずに、11日間かけて飛び続けたのです。
これは今のところ、動物の無着陸飛行としては世界最長の記録とされています(アメリカ地質調査所ほか, 2022)。
海底3,000メートル近くまで潜る動物がいた

アカボウクジラは、深い海にもぐるのが得意なクジラです。
ただ、あまりに深くまで行ってしまうため、その暮らしは長い間謎のままでした。
そこで研究者は、背びれに衛星タグを取りつけました。すると、凄まじい数値を記録しました。
最も深い潜水距離は、水深2,992 m。
最も長い潜水時間は、3時間42分。
その間息つぎなしで潜っていたのです。
これは、哺乳類の最も深く、最も長い潜水記録とされています(Schorr et al., 2014/Quick et al., 2020)。
街のゴミ処分場に通う鳥がいた

バイオロギングが明らかにしたのは、何も生き物の特殊能力ばかりではありません。
マックス・プランク動物行動研究所は、コウノトリにそっくりなシュバシコウという鳥に、GPSと加速度計をつけて調査しました。
すると、スペインの街にあるゴミ処分場へ、餌を求めて通っている姿が見えてきました。カラスみたいですね。
シュバシコウは通常は湿地でカエルや虫をとって暮らす鳥です。そんな彼らが、危険ではありますが、楽に餌を手に入れる方法を見つけました。(PNAS, 2025)。
それが理由の1つで、本来は渡りをする種ですが、現在はスペインのシュバシコウは爆発的に増えています。
こうした発見も、バイオロギングにより明らかになりました。
ちなみに、この「バイオロギング」という言葉そのものは、2003年に日本の研究者が名づけた和製英語です。
この分野は、実は日本と縁の深い科学でもあります。
第3章:何を測れるのか(センサーの種類)
バイオロガーが取得できる情報は、大きく四つに整理できます。
バイオロギングの測定要素一覧
| 種類 | 測る対象 | 主なセンサー | そこから分かること |
|---|---|---|---|
| 位置 | どこにいるか | GPS | 移動経路、行動圏、渡り・回遊のルート |
| 動き | 体の動き | 3軸加速度計 | 歩く・泳ぐ・採餌する・休むといった行動 |
| 生理 | 体の状態 | 心拍計、体温計 | エネルギー消費、ストレス、健康の手がかり |
| 環境 | 周囲の環境 | 水温・水圧・光・湿度センサー | 動物が実際に経験している環境そのもの |
とくに強力なのが3次元の加速度データです。体の揺れの波形を読み解くことで、その動物が今、歩いているのか、泳いでいるのか、餌を探しているのか等を、直接観察しなくても推定できます。位置と動きと環境を重ねれば、「いつ、どこで、どんな環境の中で、何をしていたか」が見えてきます。
第4章:データはどうやって取り出すのか
バイオロギングの課題の1つは「どうやってデータを取り出すか」にあります。
最初に説明した通り、装置にデータをためておくアーカイブ型は、高解像度で大量に記録できますが、装置を回収できなければすべてが失われます。
一方、無線や衛星でデータを送る送信型は、再捕獲が不要な代わりに、送信のための電力と重量が必要になります。
ここに常にトレードオフが生じます。
衛星を使う代表例が ARGOS システムです。広い範囲をカバーできますが、消費電力が大きく、重い送信機は小型の動物には載せられません。
地上の携帯回線や近距離無線は消費電力を抑えられる反面、対象が基地局や受信機の近くに来る必要があります。
研究者は、対象種の大きさと行動圏、必要なデータ量に応じて、これらを使い分けています。
宇宙から動物を追う試み
この回収問題に地球規模で挑んでいるのが、ICARUS(International Cooperation for Animal Research Using Space)です。
マックス・プランク動物行動研究所の Martin Wikelski が主導するこの取り組みは、小型・軽量のタグと、低軌道の衛星に載せた受信機を組み合わせ、わずかなタグ重量で世界中の動物を追うことを目指しています。
当初はISSを利用した設計でしたが、2022年にロシアとの協力が中断され、ISS のアンテナは使えなくなりました。
そこでチームは、ISS に依存しない小型衛星群による「ICARUS 2.0」へと設計を切り替えます。
2025年11月に最初の受信機を載せた衛星が打ち上げられ、2026年にはさらに運用衛星が続き、2027年半ばまでに複数の衛星から成る観測網を築く計画とされています。
集めたデータは、後述する Movebank へと集約されていきます。
第5章:小型化の問題
バイオロギングのもう1つの課題が、小型化という問題です。
高性能なバイオロガーほど、どうしても大きく重くなります。その結果、こうした装置を載せられるのは体の大きな動物に限られ、小型の脊椎動物ではいまだに旧来の手法が用いられる状況でした。
「3%ルール」とその限界
装置の重さを考えるとき、引き合いに出されるのが「3%ルール」です。
装置は動物の体重の3%以下に抑えるべきだという経験則で、目安として広く使われてきました。
ただし近年の研究は、この3%という目安が、動物が動くときに生じる力を考えに入れていない静的な数字にすぎない点を指摘しています。同じ重さの装置でも、その負担は動きの激しさによって変わるため、本来は種や暮らし方に応じて限度を考えるべきで、運動量まで考慮すると適切な上限は体重の1.6〜2.98%とばらつくと報告されています。
一律の数字だけで安全を判断することはできません。
無線バイオロギングネットワーク(WBN)という手法
この課題の解決へのアプローチの一つが、「無線バイオロギングネットワーク(WBN)」です。
これは、わずか1〜2グラムという超軽量のタグを動物につける技術です。
この小さなタグ一つで、「近くにいる個体同士がすれ違った記録(センサー検知)」「高精度な移動ルートの追跡」「離れた場所からのデータ回収」の3つを同時にこなすことができます。
実際にコウモリを使った研究では、この仕組みによって、詳細な飛行ルートだけでなく、コウモリ同士の社会的なつながりまで明らかにすることに成功しています。
動物追跡の未来は、低コストで超低消費電力の集積回路が中心になると見られています。
産業のデジタル化や高速通信網の普及が、この流れをさらに後押ししていくでしょうね。
第6章:膨大なデータをどう読むか(AI・機械学習)
バイオロギングで重要な技術はデータ収集方法に限りません。
集めたデータをどう読むかも重要です。
とくに加速度のような波形データは、人手で一つひとつ分類していては到底追いつきません。
そこで、採餌・移動・休息といった行動を波形から自動で見分けるために、機械学習が使われるようになりました。
たとえばアシカ類を対象にした研究では、加速度データから採餌行動を機械学習で識別する手法が示されています。
解析の自動化がもたらす変化は本質的です。
センサーが安く小さくなり、解析が自動化されることで、バイオロギングは一頭ずつをじっくり観察する研究から、多くの個体を連続的にモニタリングする仕組みへと変わっていっています。
データの共有基盤(Movebank と Internet of Animals)
個々の研究で得たデータも、集約され共有されて初めて大きな力を持ちます。その中心にあるのが Movebank です。

Movebank は、動物の移動軌跡を包括的に集める世界最大級のバイオロギング・データベースです。大陸をまたいで渡る鳥のルートのようなビッグデータを蓄積し、可視化しています。前章までに触れた ICARUS のデータも、このデータベースに保管されます。
日本にも、独自のデータ基盤があります。
この分野を世界的に牽引してきた日本の研究者らが開発した「BiP(Biologging intelligent Platform)」です。誰でも無料でデータを預けて標準化した形で保存でき、希望すれば公開して共有できる仕組みで、国内で取得されたバイオロギングデータを散逸させずに未来へ残すことを目指しています。

ここで重要になるのが、データの標準化、長期的なアーカイブ、そしてオープンアクセスです。
フォーマットや記録方法がばらばらでは、データを横断して比較することはできません。近年は、こうした蓄積を一度保存してそのままにするのではなく、新しいデータが追加され次第、常に最新の状態に更新・共有され続けるデータ管理システムとして運用しようという議論も進んでいます。
データを共有してこそ、動物のインターネット(IoA)は本領を発揮します。
第7章:動物福祉と倫理
バイオロギングは夢のある話だと説明するのは簡単ですが、ここで一度、考えてみましょう。
装置が動物に与える影響
装置の装着は、動物がほとんど気にせず過ごせることもあれば、行動・健康・繁殖・生存に悪影響を及ぼすこともあります。
厄介な例では、研究しようとしている当の指標を、装置そのものが歪めてしまう恐れもあります。
たとえば装着方式が体外か体内埋め込みかによって、あるいはハーネスのわずかな設計の違いによって、飛翔性能が変わってしまう例が報告されています。サメの1種では、鰭に付けたタグが水中の抗力を17.6〜31.2%増やしうるとする流体力学シミュレーションの結果もあります。これらはいずれも対象種や条件に依存する数値であり、そのまま一般化はできませんが、装置が無害とは限らないことを示しています。
3R原則と報告基準
こうした懸念に応える指針として、動物実験の3R原則が参照されます。使用数を減らす(Reduce)、苦痛を和らげる(Refine)、代替手法に置き換える(Replace)という考え方です。
タグ付けは、正当な研究や保全の問いに対してのみ、代替手法を検討したうえで行うべきだとされています。
さらに近年は、装置の影響とデータ品質の両方を担保するために、「最低限の報告基準(minimum reporting standard)」をチェックリストの形で共有しようという動きが広がっています。何を、どのように装着し、どんな影響が観察されたかをそろって報告することで、研究の透明性と再現性を高めようという試みです。動物に負担をかけて得たデータだからこそ、その扱いには誠実さが求められます。
第8章:バイオロギングの応用全体像
ここまでの基礎をふまえると、バイオロギングの応用がいかに広いかが見えてきます。
密猟・毒殺・違法捕殺を検知する
保全の現場では、渡りや回遊のルートの解明、保護区の効果検証に加えて、密猟や環境汚染、違法な捕殺の検知にもバイオロギングが使われています。
象徴的なのが、ハゲワシを「死体検知器(death detector)」として使う試みです。ナミビアでコシジロハゲワシ(Gyps africanus)にGPSと加速度計を装着し、機械学習でその行動を解析することで、広大な範囲に散らばる動物の死体を自動的に見つけ出す仕組みが示されました(Rast et al., Journal of Applied Ecology, 2024)。
死体の早期発見は、毒殺や違法捕殺、感染症の発生をいち早く察知する早期警戒網にもなります。
動物の疾病監視や早期発見
動物のバイタル情報を蓄積・解析することで、その個体の顕在化していない疾病リスクがいち早く発見できるかもしれません。
また、動物の移動データは、鳥インフルエンザのような病気の広がりと結びつけることで、疾病監視としても機能します。
どの個体がどこへ移動したかが分かれば、リスクの高い経路や時期を推定する手がかりになります。
そして、私たちの暮らしへ
こうしたGPS、カメラ、IoT、各種センサーの技術は、野生動物の世界だけにとどまりません。
同じ技術が、ペットのバイタルや食事量、体調の変化を追うウェアラブルへと降りてきています。
野生動物とペット、その両方を橋渡しするのがバイオロギングです。
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参考文献・一次ソース
本文の記述はいずれも原著の内容を要約・再構成したものです。各リンクは公開時点での有効性をご確認ください。
- 白コウノトリ研究/Max Planck Institute of Animal Behavior. From biologging to conservation: Tracking individual performance in changing environments. PNAS, 2025, 122(31), e2410947122.
- Rattenborg, N. C. ほか. Evidence that birds sleep in mid-flight(グンカンドリの飛行中睡眠). Nature Communications, 2016, 7, 12468.
- U.S. Geological Survey/Max Planck Institute ほか. オオソリハシシギ幼鳥「B6」の無着陸飛行記録(アラスカ〜タスマニア 約13,560km・11日), 2022年.
- Schorr, G. S. ほか. First long-term behavioral records from Cuvier's beaked whales (Ziphius cavirostris) reveal record-breaking dives(最深2,992m). PLOS ONE, 2014, 9(3), e92633. / Quick, N. J. ほか. アカボウクジラの最長潜水記録(222分). Journal of Experimental Biology, 2020.
- Ropert-Coudert, Y. and Wilson, R. P. バイオロギングとバイオテレメトリーの定義に関する整理(レビュー).
- 動物のインターネット(Internet of Animals)構想/Wikelski, M. The Internet of Animals(2024, 書籍)ほか。関連:Kays, R., Crofoot, M. C., Jetz, W., Wikelski, M. Terrestrial animal tracking as an eye on life and planet. Science, 2015, 348(6240), aaa2478.
- ICARUS Initiative(International Cooperation for Animal Research Using Space)/Max Planck Institute of Animal Behavior. 公式サイト. ISS版(2020–2022)および衛星版「ICARUS 2.0」(2025年11月・2026年打ち上げ).
- Movebank(動物移動データベース). movebank.org.
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- Davidson, S. C., Cagnacci, F. ほか. Establishing bio-logging data collections as dynamic archives of animal life on Earth(動的アーカイブ/データ共有基盤). Nature Ecology & Evolution, 2025, 9, 204–213.
- Ripperger, S. P. ほか. Thinking small: next-generation sensor networks close the size gap in vertebrate biologging(小型化の逆説・WBN・1〜2gタグ・コウモリ). PLOS Biology, 2020, 18(4), e3000655.
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- Rast, W. ほか. Death detector: Using vultures as sentinels to detect carcasses by combining bio-logging and machine learning. Journal of Applied Ecology, 2024, 61, 2936–2945.
- Maillard, T. C. ほか. Refining Electronic Tagging of Marine Animals: Computational Fluid Dynamics and Pelagic Sharks(アオザメ、鰭装着タグで抗力17.6〜31.2%増). Animals, 2025, 15(20), 2956.
- Payne, A. ほか. Towards a minimum reporting standard to promote animal welfare and data quality in biologging research(最低限の報告基準). Animal Biotelemetry, 2026, 14, 1.
- 3R原則および鯨類タグ付けのベストプラクティスに関するガイドライン(MDPI ほか, 2025).

